「ことばと言葉の交差点」

美術解剖学モデル海斗には、美術解剖学以外のことでコンタクトをいただく事が少なからずあります。セミナーに来たことのない(つまり私は知らない)方も多いですが、何度かやり取りしているうちに深い内容になってきます。

人は美術だけで平穏に暮らせるわけではないですから、日々の暮らしの中の困難や悩みと折り合いをつけながら生きています。誰かに相談しようかと思っても誰に言えばいいのかわからない種類の内容は、ネット上で知っているだけの他人の海斗だから匿名でざっくばらんに言えるのかもしれません。

専門的な相談にはボクの人脈の中から専門家を紹介します。でも専門家の云う事はその専門の中での狭いことが多いのも事実だったりして、困っている人にとって「本当の心の助け」にはならない事が多いのでは?と思ったりもします。親になるのに免許は要らないのと同じで、ヒトとして一緒に考えたいと思ってやり取りさせてもらっています。

そのようなことをこの場で分け合う事に社会的な意味があると思い、この「CHAT」スペースを解説しました。もちろんここでの公開にあたってはご本人の承諾をいただいています。

美術の向こう側、そして日々の事。ご関心のある方はちょっと時間を分けていただき、共に考えてみていただけたらと思います。原文はかなり長いし回数のやり取りもあるので、ここでは1問1答に要約してあります。

就職・進路

海斗さん、いつもセミナーでお世話になってます。人体は勉強するほどに面白くて私は大学を卒業したら絵の道に、人を描く仕事に就きたいのですが親が反対してきます。「好きなことしてて飯が食えるのか」、「安定しないじゃないか」、「そんな業界に入っても良い人とは出会えないよ」とか、私の感覚ではぜんぜん理解できないことを言って反対してきます。困ったことに兄もそんな感じなんです。ネットの就職ランキングみたいなサイトを見せて、「ほらトップの東京藝大でも就職は30%程度じゃん」とか言います。

私はあきらめたくありません。説得するにはどうすればいいでしょうか。

 

Mさん、いつも来ていただいてありがとうございます。まさに「アート系学生あるある」なんですよね、このご相談は。
美大のTOPと言われる東京藝大、私がさっきネットの記事を見たら就職率18%でしたがアート意識の高い大学や学生ほど普通の就職なんてしないと思うのですよ。ご両親は ”普通の就職” を望んでおられるのでしょうが、その「普通の就職」はMさんにはきっと苦痛だろうなと想像もできます。器用にこなす人もいるでしょうけれどMさんはきっと違いますね~。

美大生が”普通の就職”をしない傾向にあるのはアートでやっていく、という気持ちが強いからです。これはいわば当たり前のこと。
逆に、たとえば経済学部の学生が就職せずにいきなり起業するなんて希なことですから”普通の就職”をするだろうし、工学部も設備が無ければ何もできない。IT系はいずれ起業する率は高いけれどビジネスリテラシーがなけりゃ仕事ができないし、仕事が来ないからまずどこかに就職して仕事を学びます。

その意味では美大系はそこの観点は確かに違いますね。でも、アートをビジネスにするスキルを学んで将来の自分に備えるために「普通の就職をする」のも悪くは無いかなと思います。この世は経済と法律が支配する世界です。だれもこの二つからは逃げられないし、お金と仲の悪い人はなにかと損をします。お金って、アーティストにとっては選択肢なんです。お金があれば選択肢が増える。選択肢の無いアーティストはできるアート活動に制限ができてしまいます。

だから、アーティストでやってゆきたいMさんにとって目の前の就職とは何を意味をもつのか。30歳の自分を想像してその時自分に役に立つ選択を考えてみましょう。今の自分じゃなくて。できれば同年代ではない30歳以上の人のアドバイスを求めることがいいのでは。

学卒いきなりアーティスト。未熟な自分を修行に出すためにまずどこか就職。どちらにも意味はあります。
どちらに行くにしても、「何のために?」という選択の理由を自分自身に対して明示できるように考えましょうね。

で、選んだ道が違うと思ったら、他の道を選びなおすことをお勧めします。昭和な考えだと一度選択した道はやりきれとか言いますけど、間違った道の行き着く先は思ってもいない終着点につながるだけだと思います。